「(扉をちょうつがいごと蹴破って)賢治ちゃん、お夜食をもってきたわ。勉強ははかどってるかしら」
「(椅子ごと真後ろにぶっ倒れて)うおあッ! ババア、部屋に入るときはちゃんとノックしろっていってんだろうが!」
「(不気味に緑色の煙をあげる夜食の盆を取り落として)まあっ! なんなのそのむきだしの下半身の先端にティッシュペーパーをはりつけ、アヌスに乾電池を突き刺した人間のオスがとりうる最も間の抜けた姿は! ま、まさかあなた、今まで」
「(うろたえて)バ、バカヤロウ、何勘違いしてんだよ、何勝手な想像してんだよ…あ、おい」
「この教科書とノートの間にある扇情的なピンクをした表紙の破廉恥な雑誌はいったい…あなたまさか今までこっそりオ」
「(全裸にマスクの男が天井を突き破って闖入してくる)奥さぁんッ!」
「きゃああっ! 春先だからといってこれはあんまり唐突すぎるわ!」
「(母親と賢治の間に立ちふさがりながら)さぁ、賢治くん。私が来たからにはもう安心だ。(目をのぞきこんで)誰にも君の優雅なオナニーライフを邪魔だてさせはしない!」
「あ、あなたは……」
「私か。私の名前は(流れだす勇壮な音楽。両手を前面に突き出し順番に5本・7本・2本と指を立ててみせる)オ・ナ・ニーッ! 人は私をMr.オナニーと呼ぶ!(宣言とともに背景がショッキングピンクとどどめ色で交互に激しく点滅する)」
「(鼻息荒く)Mr.オナニーだかなんだか知らないけど、これは家庭の問題です! 賢治ちゃん、あなたはオナニーなんて馬鹿なことはしなくていいのよ。ほら、母さんが相手をしてあげるから…邪魔よ、あなた邪魔なのよォォォォ! ブフーッ」
「ああっ、アザラシをも圧死させる母さんの200キロの巨体が軽やかに宙を舞い、Mr.オナニーに襲いかかったぞ!」
「グワシャッ(Mr.オナニー、遙か上空まではねあげられ頭から無防備に落下する)」
「ブフーッ、賢治ぢゃぁぁぁぁん」
「(部屋の隅で膝を抱えてふるえながら)口ではどんなかっこいいこと言ったって、どだい初代シベリア全生物無差別級格闘王者の母さんにかなうわけがなかったんだ…ああ、僕は母さんに捧げるのか。こんなことになるのがわかっていたら、もっと積極的に青少年の匿名性をかさに着た生きざまで軽犯罪などをいくつか犯しておくのだった……」
「(瓦礫の中から立ち上がりながら)賢治くん、あきらめてはだめだ」
「み、Mr.オナニー! だめだよ、立ち上がっちゃ! あなたの実力では母さんには到底勝てっこないんだ!」
「だいじょうぶ、足りないぶんは…(爽やかに白い歯をみせて)チンポでおぎなえばいい!」
「(下半身を蜘蛛のように誇示しながら)ブフーッ、チンポですって!? チンポが何だっていうのさ! しょせんチンポはヴァギナに隷属する運命なのよ! ブフーッ(突進する)」
「ああ、母さんの言うとおりだ。チンポは絶対にヴァギナには勝利できないようになっているんだ、そういうふうにできているんだ(絶望的に両手で顔を覆う)」
「(迫り来る600キロの巨体に拳を握りしめながら)女よ、言っておく! チンポを笑うものは…(腰を落としてかまえる)チンポに泣くのだ! 今だ、必殺オナニーパンチ!」
「SMAAAAAAAAAAAAAAAAASH!」
「ああっ! 怒り狂ったアフリカ象の突撃をも食い止める母さんの1トンの巨体がMr.オナニーの細腕から繰り出されたパンチに吹き飛んだぞ! Mr.オナニーの繰り出したパンチと吹き飛ぶ母さんの間に挿入された書き文字の擬音が両者のそれぞれの状態に存在する暴力的な因果関係をうち消しており、社会的配慮もばっちりだ!」
「ば、ばかな、たかがチンポごときが…(がくりと首をたれる)」
「Mr.オナニー、Mr.オナニー!(泣きながら駆け寄る)」
「(満身創痍の様子で)ふふ、賢治くん、わかってくれたかい。唯一信じる心が、君たちのオナニーを救うのだということを」
「うん、うん! これからはぼくはあんな自室に引きこもって鍵をかけてするこの世界の原罪をすべて背負ったような後ろめたさではなく、公衆の面前でどうどうとチンポをぶっかくよ!」
「(優しく目を細めて頭を撫でる)そうだ、その意気だ。私はもう行かねばならない。この世界のオナニーはまだまだ危機に瀕している…賢治くん、いつもチンポを信じる心を忘れないように! さらばだ!」
「(空のかなたへ飛んでいく姿に手を振りながら)ありがとう、Mr.オナニー! 素晴らしいオナニーをありがとう!」
「(雲の谷間を全裸で飛行しながらカメラ目線で)テレビをご覧になっているみなさん、オナニーは次世代を担うクリーンなエネルギーです。どうぞ家族のかた、親戚のかた、ご近所のかたに安心しておすすめ下さい。それでは、グッドオナニー!(空の向こうに光となって消える)」